名古屋高等裁判所 平成3年(ネ)157号 判決
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
1 原判決を取消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、金二三五〇万円及びこれに対する昭和六二年二月二二日から支払い済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 控訴の趣旨に対する答弁
主文と同旨。
第二当事者の主張
次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決二枚目表一〇行目末尾の次に行を変えて次のとおり加える。
「(五) 被保険者 亡B
(六) 保険金受取人 控訴人」
2 同三枚目表六行目の「本件保険契約」を「本件災害割増特約及び傷害特約」と改める。
3 同五枚目表六行目、同六枚目表二行目、同裏六行目及び同七行目の各「Bら」をそれぞれ「亡Bら」と改める。
4 同六枚目裏一〇行目冒頭から同七枚目表六行目末尾までを次のとおり改める。
「 亡Bは、睡眠剤服用により寝込んでしまって凍死したというのではなく、睡眠剤を服用したものの、その後覚醒して歩行中側溝に転落し、同女が短足であったため、側溝から這い上がれず、その結果、急性心不全により死亡したものである。右のとおり、亡Bの直接の死亡原因は側溝への転落であるところ、右側溝は降雪によりその存在がわかりにくくなっていたのであるから、亡Bにとっては側溝への転落を予見することはできなかったというべきであり、したがって、亡Bの死亡は側溝への転落という予見不可能な特別事情によるものであって、睡眠剤を服用して寝込んだことと、亡Bの死亡との間には相当因果関係はない。また、睡眠剤を服用して寝込んだことについても、所持金が乏しくなって旅館に宿泊できなくなった亡Bらが、見知らぬ旅先で人家に近い藁置小屋を見つけて野宿することとしたものであって、亡Bが肥満体型であったことや、防寒用として十分な着衣であったことに鑑みると、亡Bは凍死の危険性など予想もしなかったはずであるから、睡眠剤を服用し野宿したこと自体に重過失があったとすることもできない。」
第三証拠関係
原審及び当審における記録中の各証拠目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 当裁判所も、控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決七枚目裏一一行目の「安定剤」を「睡眠剤」と、同八枚目裏九行目の「二月六日の夜」から同一〇行目末尾までを「二月六日の夜と翌七日の午前の二回にわたるものであったこと、」とそれぞれ改める。
2 同九枚目表一〇行目の「同小屋はリンゴ又は桃の果樹園の中にあり、」を「同小屋は、畑の中にあって、人家から約一五〇メートル程離れた位置にあり、」と、同一一行目の「約六〇メートル」を「約七二メートル」とそれぞれ改める。
3 同九枚目裏九行目の「その付近」の次に「の雪の上に」を、同一〇行目の「合計二〇袋分」の前に「通常の用量より多量の」をそれぞれ加え、同一一行目の「寒さの」から「のように」までを「起き上がって」と、同一〇枚目表三行目の「そのまま」から同四行目末尾までを「翌八日午前五時三〇分ころ発見されたが、既に死亡していたこと、」と、同九行目の「翌八日」を「同日」と、同一〇行目の「間もなく」を「同日午前一一時一〇分ころ」とそれぞれ改める。
4 同一二枚目裏二行目と同七行目の各「Bら」をいずれも「亡Bら」と、同五行目の「亡Bはそれをしていないこと」を「原審における控訴人本人尋問の結果によれば、亡Bはそれをしていないことが認められること」とそれぞれ改める。
5 同一三枚目表七行目冒頭から同裏五行目末尾までを次のとおり改める。
「 これを本件について見るに、二月上旬という厳寒の季節に、付近に人家があるにもかかわらず、敢えて山間部の雪の中で野宿しようとし、通常より多量の睡眠剤を服用したうえ、単に藁を敷いただけでその上に前記認定の服装のまま寝込むことは極めて凍死の危険性の高い行為であるといわざるを得ず(現に、亡Cが右寝込んだ場所からさほど距離を置かない場所で凍死したことは前記認定のとおりである。)、このことは亡Bにも容易に予見できたというべきである。控訴人は、亡Bは、防寒に十分な着衣で肥満体であったから、凍死の危険を予測し得なかったと主張するが、亡Bの着衣は冬季における通常の外出着に過ぎないと窺われるから、いかに肥満体であるとはいえ、このような着衣のままで、睡眠剤を服用し、山間部の雪の中で野宿しようとして寝込むことの危険性は、通常人であれば容易に予測し得たといわなければならない。
もっとも、亡Bの死因は、凍死ではなく、低温下における側溝への転落を原因とする心不全によるものであると診断されていることは前記認定のとおりであるが、いずれも低温下で戸外に身をさらす点では原因を同じくするものである。また、側溝の深さは約五〇センチメートルというのであるから、積雪があったとはいえ、この程度の高さであれば、健康な大人ならば転落しても容易に這い上がることが可能であるというべきところ(前掲乙一一によれば、亡Bが体型的に特に劣っていたわけではないことが認められ、同女が健康的に何ら問題のなかったことは前記認定のとおりである。)、亡Bは、這い上がることができなかったのみか、側溝の中をわずか一二メートル程移動した地点で動けなくなったことに鑑みると、側溝への転落時の亡Bの体力及び意識状態は相当程度に低下していたと推認される。そして、低温下に身を置くことによって体温の低下を招き、その結果、体力及び意識の低下を来すことは当裁判所に顕著であるから、右亡Bの体力及び意識低下は、他に特段の事情の認められない以上、雪の中で睡眠剤を服用し寝込んだことによりもたらされた結果であると認めざるを得ない。以上に加え、亡Bの側溝への転落それ自体も、側溝が雪に覆われてその存在が分かりにくかったことのほか、意識低下の状態で動いたこともまた原因である可能性を否定することができないことや、右転落地点が亡Bらが寝込んだ地点の近傍であること、さらに、亡Bの右の如き体力及び意識低下の状態では、同女は、側溝に転落しなかったとしても、雪の中を徘徊するうち、途中で転倒して凍死した可能性も高いと推認されること(亡Bより若い亡Cが、寝込んだ場所からさほど距離を置かない地点で凍死していることは前記のとおりであり、また、亡Bは側溝に転落したため、かえって生存時間を長引かせることができたことは前記認定のとおりである。)などの諸事情を考慮すれば、亡Bの側溝への転落を原因とする死亡と雪の中で睡眠剤を服用して寝込んだ行為との間には相当因果関係があるのみならず、右死亡は、右行為による凍死と同視し得るものであるともいうべきである。したがって、この点に関する控訴人の主張は採用できない。
以上によれば、亡Bの死亡は、同女の重過失によって招来されたものといわざるを得ない。」
二 よって、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 野田宏 裁判官 園田秀樹 裁判官 園部秀穗)